脳のはなし

行動課題を実現する時の脳領域と働きを解明

東京都医学総合研究所 脳機能再建プロジェクトの中山義久主席研究員と、自然科学研究機構生理学研究所 心理生理学研究部門の定藤規弘教授らは、ヒトの脳の前頭葉の背側運動前野が、目的志向的行動の段階的な計画過程に関係することを、2022年にアメリカの科学誌『NeuroImage』で発表しました。

目的志向的行動は「目的を設定する」「行為を選択する」「行為を準備する」といったようにいくつかのステップを予測して行動すること。

例えば、ドアを開けるという行動を達成する時の、ドアの種類やドアの状況に応じて「右に動かす」「左に動かす」「ドアノブを回す」などと言った一連の行為を指します。

この研究は、まず行動の目的「ドアを開ける」と、行為(ドアを右に動かす、ドアを左に動かす)を切り分ける行動課題を作成し、目的にもとづいた行為を選択する過程の脳の運動前野について調べました。それぞれのステップの背景にある脳の機能的役割を明らかにするため、行動課題を行っている被験者の脳活動を、fMRI(磁気共鳴機能画像法)を用いて測定。

図)行動の計画過程と活動が見られた脳の領域

出典)東京都医学総合研究所・自然科学研究機構生理学研究所

その結果、目的行動の決定は前頭葉の運動前野の下前方部、行為の選択は上前方部、行為の準備は後方部といったように、目的決定から行為の実現へ計画段階が進むにつれ、運動前野内の異なる複数の領域が役割分担しながら、目的達成のための行動を実現することがわかりました。

高齢ドライバーが車のアクセルとブレーキを踏み間違えてしまう事故が、近年、多発しています。この事故は行為の目的を理解しているものの、それを正しく表現できなくなっている現象です。

研究成果は、踏み間違いのような「わかっているのにできない」現象が、なぜ起こるかを理解するための重要な手がかりになるのではないかということです。

さらに、この研究で見出された運動前野の役割分担の視点を発展させることで、認知症や高次脳機能障害の病態理解や新たなリハビリテーション法の開発に繋がることが期待されています。

参考)https://www.nips.ac.jp/release/2022/04/post_473.html

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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