脳のはなし

薬物に頼らない認知症治療法を開発

これまでアルツハイマー型認知症の治療薬は、保険適用されている4種類の投薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン)と、アメリカで承認されたアデュカヌマブなどがあります。

2022年に薬物に頼らない新たな治療法として、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)※1を用いた日本人のアルツハイマー型認知症の改善についての研究結果を、大阪大学大学院医学系研究科の齋藤洋一特任教授(現・篤友会リハビリテーションクリニック院長)らの研究グループが、国際誌「Frontiers in Aging Neuroscience」で発表しました。

大阪大学大学院医学系研究科の齋藤洋一特任教授らの研究グループは、帝人ファーマ株式会社と共同開発した反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)。右図は研究グループが開発した偏心球面コイルで、このコイルがエネルギー効率を改善させる働きをしています。

この研究は、研究グループが在宅用rTMS機器開発を目指し、帝人ファーマと臨床研究用に共同開発した未承認医療機器を使って行ったもの。アルツハイマー型認知症の投薬を受けている60 ~ 93 歳 (平均 76.4 歳) の 42 名を対象に、患者の両側前頭前野に高頻度刺激(刺激強度:120%、90%安静運動閾値※2および偽刺激)を4週間にわたり施行しました。

その結果、認知症のスクリーニング検査であるMMSE(ミニメンタルステート検査)10〜25点の全患者対象では、有意な有効性が示されませんでした。
けれども認知症のスクリーニング検査であるMMSE(ミニメンタルステート検査)が30点満点中15点以上の(軽度~中度程度の認知症)に限れば、120%群は4週後にADAS-cog(アルツハイマー病評価尺度-認知行動)のスコアが有意に改善されただけでなく、その効果が約20週継続することも明らかになったのです。
さらに、軽度認知障害のスクリーニング検査であるMoCA-Jにおいても同様の傾向が示されたことから、日本人のアルツハイマー型認知症におけるrTMSの治療の有効性が示されました。

この治療法は薬物治療以外での、軽度~中度程度の日本人アルツハイマー型認知症の副作用の少ない新たな脳刺激療法として、今後期待されます。

※1:非侵襲的(生体を傷つけないような)に大脳皮質を刺激する事ができる治療法。様々な神経疾患において研究が進んでいますが、うつ病に対して、日本でも2019年、米国製の機器が保険適用となっています。

※2:安静時に、経頭蓋磁気刺激でごく小さい運動誘発反応を生じさせる最小の刺激強度のこと。

出典:大阪大学大学院医学系研究科

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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