脳のはなし

睡眠不足が及ぼす脳腸関係のメカニズムを解明

脳腸関係とは、重要な器官である脳と腸は、自律神経系や免疫系などを介してお互いに影響を及ぼし合っていること言います。近年、その脳腸相関の研究が注目されています。

例えば、腸内細菌叢(腸内フローラ)は個人差が大きく、細菌の状態によっては、糖尿病やがんなどの病気やストレス、うつ病を発症することもわかってきました。さらに最近の研究では、記憶の定着や免疫機能の維持など様々な生理機能の調整において極めて重要な睡眠が不足すると、病気と関係している腸内細菌叢の破綻を誘導することも明らかになってきました。ただ、睡眠不足が腸内細菌叢の組成にどのように影響するのは、まだわかっていませんでした。

そんな中、北海道大学大学院先端生命科学研究院の中村公則教授と、同大学院医学研究院の玉腰暁子教授らの研究グループが、睡眠不足により腸内細菌叢が乱れるメカニズムを初めて解明し、2023年に国際学術誌『Gut Microbes』で発表しました。

この研究は、北海道寿都町在住の消化器病の治療を受けていない35人を対象に、調査したもの。

睡眠障害にともなう腸内細菌叢が破綻するメカニズムを解明するため、腸管の免疫で重要な役割をしている免疫物質、αディフェンシンに着目。睡眠と、αディフェンシンの分泌量、腸内細菌叢とその代謝物などについて詳細に解析しました。

その結果、睡眠不足の人は腸内のαディフェンシン低下に関係していることを明らかになりました。さらに、短い睡眠が腸内の細菌叢の組成や機能的な異常に関与することがわかってきました。

この研究結果は、脳腸関係での「睡眠-αディフェンシン-腸内細菌叢」という新たな視点を提示した画期的なものです。

図)αディフェンシンの低下を介した睡眠不足における脳−腸−全身相関メカニズム

睡眠不足による腸内細菌叢の組成変化が影響していることを解明したことで、自然免疫と腸内細菌叢を介した脳腸相関を改善し、睡眠障害を治療できるようになる可能性があるということです。

これらの研究成果により、今後の睡眠障害の予防法や新薬の開発なども期待されています。

出典):北海道大学大学院先端生命科学研究院・北海道大学大学院医学研究院(PDF)
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2023.2190306

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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