脳のはなし

筋肉量が減少した人は、認知症リスクが高い傾向に

近年の研究では、筋肉量が減少し筋力が低下する「サルコペニア」になると、自力で立ち上がったり歩行できなくなったりするだけでなく、関節疾患、認知症、糖尿病、脳卒中、骨折などにかかりやすく、死亡率が上がると言われています。

順天堂大学大学院医学部医学研究科スポートロジーセンターの染谷由希助教、田村好史 准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループが、サルコペニアと認知症について「文京ヘルススタディ」※1で調査した報告があります。

肥満(BMI※2 ≧25kg以上/m²)でかつ、握力が弱い(男性28㎏、女性18㎏未満)「サルコペニア肥満」の人は、軽度認知機能障害(MCI)と認知症のリスクが高いことを、2022年に学会誌『Clinical Nutrition』で発表しました。

この研究は、文京区在住の65〜85歳未満の高齢者約1,615人を対象に、身長・体重測定、握力測定、認知機能検査を実施したものです。研究では筋力低下のみを基準とし、握力が男性で28㎏、女性で18.5kg未満を「サルコペニア」と定義。次に、肥満もサルコペニアもない「正常」、「肥満」、「サルコペニア」、「肥満」「サルコペニア」の両方とも該当する「サルコペニア肥満」の4つのグループに分けて、認知機能検査の点数や軽度認知機能障害(MCI)、認知症の有病率を比較しました。

その結果、「正常」「肥満」「サルコペニア」「サルコペニア肥満」の順で、認知機能検査の点数が低下し、軽度認知機能障害(MCI)、認知症ともに有病率が増加していることが明らかになりました。

また、年齢や教育歴、高血圧、糖尿病などの基礎疾患を調整した結果、「サルコペニア肥満」は、「正常」と比べて、軽度認知機能障害(MCI)のリスクが約2倍、認知症のリスクが約6倍になることがわかりました。さらに、認知症では、「サルコペニア」だけでも、「正常」の約3倍のリスクがあると報告しています。

今回の研究で、握力やBMIといった簡単な方法によって、認知機能低下の早期発見に役立つ可能性が明らかになりました。けれども、サルコペニア肥満と認知機能低下が関連するメカニズムや、認知機能低下の原因などについては不明な点があるため、今後も研究を進めていくそうです。

高齢者のサルコペニアやサルコペニア肥満の予防は、食生活と運動です。肥満や筋力低下が気になる場合は、まずは生活習慣を見直すことから始めてみましょう。

※1 文京区民1,629名の高齢者を対象として行われるコホート研究。認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、また「どのように」早期の発見・予防が可能となるかを明らかにする研究。

※2 【体重(kg)】÷【身長(m)の2乗]で算出される値。日本肥満学会で定めた基準は、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」です。

図)肥満(BMI≧25kg/m²)とサルコペニア(握力低下)の状態と軽度認知機能障害(左)、認知症(右)の有病率との関係

「サルコペニア肥満」は、「正常」と比べて、軽度認知機能障害のリスクが約2倍、認知症のリスクが約6倍になることがわかりました。さらに、認知症では、「サルコペニア」だけでも、「正常」の約3倍のリスクがあることが明らかになりました。

出典)順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンター

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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