脳のはなし

2型糖尿病の人の認知症予防

2017年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病患者は約1000万人で、予備軍と言われる糖尿病を疑われる人の割合は男性で19.7%、女性で10.7%という報告があります。

糖尿病は1型と2型があり、自己免疫反応の異常やウイルス感染などによって、すい臓のβ細胞に障害が起きてインスリンが生産できなくなり、高血糖状態が続くのが1型糖尿病で、子どもや青年に多く発症します。一方、2型糖尿病は、遺伝的な要因や運動不足、飲酒・過食などの生活習慣などが原因で発症すると考えられて、日本は1型糖尿病より2型糖尿病の人が多いと言われています。

2型糖尿病の人は血糖コントロールが上手くいかずに高血糖が続くと、高齢になった時に認知機能の低下や認知症の発症リスクが高くなるため、正しい治療を継続することは大切です。けれども、糖尿病や糖尿病を疑われる人の中には、きちんと治療を受けていない人もいるのではないでしょうか。

糖尿病の薬物治療については、糖尿病の血糖値を下げる薬を正しく服用すると、認知機能低下や認知症の発症を抑える可能性があるという研究が2020年に学会誌『Neurology』で発表されています。

この研究は、韓国の延世大学校医科大学の研究チームが記憶力や思考力の障害を感じて受診した平均76歳の男女282人を対象に行ったものです。参加者のうち70人が糖尿病で「DPP-4阻害薬」による治療を受けているグループ、71人は糖尿病だが薬物治療を受けていないグループ、残りは糖尿病でないグループで比較しました。

研究開始時の認知テストでは、どの参加者もスコアに有意な差はありませんでした。けれども認知症に関係するタンパク質「アミロイドβ」の量を測定するために脳画像検査(PET)を行った結果、「DPP-4阻害薬」を服用していた人は、他の参加者に比べ、「アミロイドβ」の蓄積量が少ないことがわかりました。

さらに参加者全員に思考力と記憶力を調べる「ミニメンタルステート検査(MMSE)」を12か月ごとに2 年半行うと、「DPP-4阻害薬」を服用していた参加者のスコアは年間平均して0.87ポイント低下していたのに対して、糖尿病でない参加者は1.48ポイント、糖尿病だが薬物治療を受けていない参加者は1.65ポイントも低下していることが報告されています。

また、研究者がテストのスコアに影響を与える可能性のある他の年齢や病歴などの要因を調整しても、「DPP-4阻害薬」を服用しているグループは、薬を服用していないグループよりも認知機能が緩やかに低下することがわかりました。

これらの結果から、糖尿病の人が糖尿病治療薬「DPP-4阻害薬」を服用していると、認知機能低下を抑制するだけでなく、脳内の「アミロイドβ」の蓄積を抑制する可能性があると述べています。

糖尿病だとわかっていても薬物治療していない人や予備軍の人は要注意です。認知症予防のためにも、病気を早期発見し、医師の指示のもと治療を続けることが大切です。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

※ ご自身の脳についてもっと知りたい方は、川島隆太博士監修の「脳のはなし 6日間無料メール講座」の受講をおすすめします。

  • 脳活動と日常生活の関係性
  • 現在脳科学でわかっている事実
  • 効果的な脳の鍛え方

などを6日間にわたってメールでお伝えします。
ご登録はこちらから