脳のはなし

世界初! チームが「ゾーン」に入った時の脳活動が明らかに

「ゾーン」に入るという言葉を耳にしたことはありませんか? 集中力が高まり、それに伴いパフォーマンスが向上する状態を「ゾーンに入る」と一般的に言います。

豊橋技術科学大学(豊橋技科大)と東北大学が、複数の人間が協調して「ゾーン」に入った状態(チームフロー)に関係する脳波と脳領域を特定したことを2021年に学術誌『eNuro』に発表しました。

この研究は、チームフローに関係のないチームワークやソロフロー(個人が「ゾーン」に入った状態)と比較することでわかったもので、「チームフロー」時の心理状態を客観的に研究する世界初の試みとして注目されています。

心理学的には「ゾーン」状態のことを「フロー」と言います。「チームフロー」とは、チームのメンバーがそれぞれ協調して「ゾーン」に入って一緒にタスクを達成するときに経験する状態のこと。「チームフロー」の状態にある時は、通常の限界を超えて調和の取れた極めて高いパフォーマンスを発揮すると言います。サッカーやバレーボールなどのスポーツチーム、ダンスチーム、音楽バンド、さらには仕事のプロフェッショナルチームが、「チームフロー」の心理現象を経験しています。

この研究では、参加者が2人1組で音楽ビデオゲームをプレイしている時、それぞれのプレイヤーの脳波を同時に測定する実験を行いました。実験ではフロー状態をコントロールするために、通常のプレイ環境のほか、プレイ中のお互いの顔が見えないようにパーテーションで区切り、ソロのフロー状態は可能でもチームのフロー状態は不可能な状態にしたり、音楽を編集したりすることで、フロー状態になれなくてもチームワークを保つことは可能な状態を作りました。そうしたゲームの実験後に参加者に質問に答えてもらい、それぞれのフロー状態のレベルを評価しました。

チームフロー時の中側頭皮質ベータ、ガンマ帯域の脳波グラフ

出典)豊橋技術科学大学 東北大学

実験後、ソロフロー、チームワーク、チームフローの様々な状態にあるゲームプレヤーの脳活動を比較すると、チームフロー状態では側頭葉にある中側頭皮質でベータ波とガンマ波が増加していることがわかりました。またチームフロー状態では、通常のチームワーク状態と比べて、チームメイトの脳活動がより強く同期することも明らかになりました。

この研究は、スポーツ、音楽、ゲーム、ビジネス、エンターテインメントなどパフォーマンスなどの分野において、脳神経モデルに基づいた、より効果的なチーム作りの戦略に活用できるものです。

研究者らは、今後、政府機関や産業界と協力して、チームのパフォーマンスをモニタリングしたり強化したりすることによって、さらに効果的なチームを構築するために、今回の研究成果を活用することを目指していると報告しています。

そのほか、楽しさを維持しながらパフォーマンスを向上させることは、うつ病やパニック障害、不安症の発生率を低減するなど、生活の質の向上につながる可能性があることから、これらの治療にも活用できるのではないかと述べています。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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