脳のはなし

骨格筋の萎縮が認知症発症の引き金であることを解明

運動習慣が認知症の予防に有益な効果があることは、これまでもたくさんの研究で報告されてきました。今回、新たに、筋肉の種類のひとつである「骨格筋」の萎縮が認知障害を引き起こす可能性があることを、2021年にアメリカの科学誌『Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle』が発表しました。

この研究は、富山大学学術研究部薬学・和漢系/和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域の東田千尋教授と長瀬綸沙大学院生の研究チームによるアルツハイマー病モデルのマウスを使って実験です。

実験は、記憶障害が起こる前のマウスに対して器具の装着を2週間行い、後ろ肢を動かなくすることにより筋萎縮を誘発させ、その直後の記憶障害を調べたものです。

アルツハイマー病モデルマウス 骨格筋の萎縮と記憶障害発症に関する実験

その結果、器具を装着していないマウスでは記憶能力が正常でしたが、筋萎縮したマウスは若齢にも関わらず記憶障害が発症していることがわかったのです。

さらにマウスの萎縮した骨格筋から分泌される分子を調べた結果、特にタンパク質の一種、ヘモペキシンタンが増加していることが判明。また、筋萎縮したマウスはヘモペキシンの量が骨格筋中だけでなく、血中や脳の海馬でも増えているが確認されたことから、骨格筋が萎縮すると、ヘモペキシンが分泌され脳内に到達するのではないかということです。

そうした推測をもとに、研究チームが認知障害発症前のかなり若齢のマウスの脳に直接ヘモペキシンを投与してみると、記憶障害を発症。マウスの脳内を調べると、神経炎症を起こす物質が増えていることから、ヘモペキシンが認知機能障害を起こす有害物質であることが明らかになりました。

研究チームは、ヘモペキシンの分泌を抑制することで、認知症の発症を予防することが可能かどうかの検証を今後も続けていくと述べています。

出典)富山大学学術研究部薬学・和漢系/和漢医薬学総合研究所

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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