脳のはなし

家庭内の電力使用データから認知機能低下を予測

2020年の内閣府の高齢社会白書によると、全世帯の中で65歳以上の高齢者の夫婦のみの世帯が一番多く約3割を占めています。65歳以上の1人暮らし世帯を含めると全世帯の6割近くを占め、男女ともに高齢者だけで住む世帯が年々増え続けています。

親族が近くに住んでいればそれほど心配はありませんが、高齢な親が遠方にひとり暮らしをしていると、認知症や病気、事故など心配はつきません。

国立循環器病研究センターと東京電力パワーグリット株式会社の研究グループが性別、年齢などと電力使用データを用いたAI(人工知能)予測モデルを使って、認知機能低下を高精度に予測したことを、2021年にスイスの学術誌『Sensors』で発表しました。

これまでにも、高齢者の家電の使用量や生活をモニタリングする技術は報告されています。けれども今回の研究は、家庭にある分電盤に高精度電力センサーを設置するだけで、AIを活用した機器分離技術による各家電の使用状況から、認知機能低下を予測することに、世界で初めて成功したものです。

この研究は、宮崎県延岡市の65歳以上の高齢者78名を対象に行われたもので、年齢、教育歴などの基本情報と、電力データはIH(電磁誘導調理器)、電子レンジ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機などの使用状況を使用し、認知機能の低下のあるなしの2つのグループに分けて分析されました。

認知機能低下群と、認知機能正常群の家電使用時間 出典)国立循環器病研究センター・東京電力パワーグリッド株式会社

その結果、認知機能が低下していたグループは、認知機能正常グループと比較してIHの使用時間、電子レンジの春と冬の使用時間、エアコンの冬の使用時間が短い傾向があることがわかりました。また、電力使用時間の季節ごとの平均値の変数と年齢、教育歴などの基本情報を加えた予測モデルの性能は、認知機能低下の予測精度 82%という高い精度であることも報告されています。

この研究は、今後も宮崎県延岡市において、研究成果を活用したサービスの検討を進めていくことで、高齢者世帯の便利で安心な暮らしの実現につながることが期待されます。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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