脳のはなし

認知機能低下に一番有効な運動は、有酸素運動

運動には認知機能低下や認知症予防に効果があるという研究が報告されてきましたが、具体的にどのような内容の運動が高齢者に有効であるかはわかっていませんでした。

これまでの研究で効果があるとされているのは、ウォーキングなどの有酸素運動や筋肉に負荷をかける筋トレ、レジスタントレーニングです。

名古屋大学大学院医学系研究科の葛谷雅文教授らの研究グループは、どのような運動が高齢者の認知機能低下の予防に効果があるのか明らかにし、国際科学誌『Journal of Alzheimer’s Disease』で発表しました。

この研究は、愛知県在住の65歳~85歳の認知機能の低下を自覚している高齢者415人を対象に、有酸素運動のグループ、レジスタンストレーニングのグループ、有酸素運動+レジスタンストレーニングを組み合わせたグループ、運動をしないコントロールグループに分けて実施したものです。

運動するグループは、週2回(1回60分)、運動教室に6か月間通ってもらい、教室開始前と、6か月後に認知機能と、身体機能について調査し、さらに終了後6か月後(フォローアップ)についても調べました。

記憶検査課題の成績の推移

検証の結果、事後の時点で、コントロール群と比べて、有酸素運動を行った群の遅延再生課題成績(記憶力 を反映)の有意な上昇が認められました。フォローアップ時点の時点では、統計的な有意差は見られませんでした。

出典)名古屋大学大学院医学系研究科

その結果、運動をしていないコントロールグループに比べて、有酸素運動を行ったグループの事後時点のみ遅延再生課題成績(記憶力の反映)が高いことがわかりました。これはレジスタンストレーニングを行ったグループと、両方を組み合わせたグループでは見られませんでした。

この結果から、認知力低下の予防には有酸素運動が有効であり、認知機能が低下する前から行うことが効果的だと報告しています。

有酸素運動はウォーキングなど手軽に始められます。ご自身のためだけでなく、コロナ禍で閉じこもりがちな高齢なご家族にも、積極的にウォーキングなど有酸素運動をすすめる声がけをしてみてはいかがでしょう。

Makino T, et al. J Alzheimers Dis. 2021;82(2):701-717.

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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