脳のはなし

認知力を高めて転倒防止にもなる家事の習慣

コロナ禍で外出が減った影響で、これまで以上に高齢者の運動能力や、認知能力の低下が問題になっています。そこで、運動以外に、高齢者のこれらの能力を維持するために役立つのではないかと注目されているのが、身体運動を伴う家事です。

2021年にシンガポール工科大学と、シンガポール国立大学の研究グループは、掃除や洗濯などの家事を行うことが、認知能力を高めるだけでなく、高齢者の転倒予防につながる可能性のあることを医学誌『BMJ Open』で発表しました。

この研究は、シンガポール在住の21〜64歳(平均44歳、249人)と、64〜90歳(平均75歳、240人)のグループのそれぞれの記憶力や注意力などの認知能力と、足腰の強度などの身体能力を調べたものです。この調査では、あわせて習慣としている家事の種類や強度のほか、日常的に行っている運動についてのアンケートも行いました。

軽い家事とは、洗濯や拭き掃除、洗濯物干し、片づけ、アイロンがけ、料理など。重い家事は、掃除機がけや窓拭き、床掃除、ベッドメイク、家具の移動、ガーデニングなどです。

調査の結果、家事を多く行っている高齢者は、あまり行っていない高齢者と比べ、軽い家事を行っている人で5%、重い家事を行っている人で8%も認知能力のスコアが高いことがわかりました。さらに軽い家事を行っている高齢者は、短期記憶※が12%、長期記憶※のスコアが8%、重い家事を行っている高齢者は、注意力のスコアが14%、それぞれ高くなっていることも明らかになりました。

身体能力については、座った状態から立ち上がるまでの時間などのスコアが、軽い家事をしている高齢者は8%、重い家事をしている高齢者は23%、速いという結果でした。こうした関連は、21〜64歳の若い人グループでは見られなかったそうです。

この研究は、詳細のメカニズムについて解明されていないこともあります。けれども、運動と同様に家事を生活の一部として取り入れることは、記憶力や注意力などの認知能力や、足腰の強度など身体能力を維持することに、役立つのではないかと述べています。

※短期記憶は、脳の中に記憶を一時的に保管すること。長期記憶は、脳の中に記憶を長期的に保管すること。

参考論文:https://bmjopen.bmj.com/content/11/11/e052557

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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