脳のはなし

認知症の前段階の状態を予測するアルゴリズムを開発

認知症の要因として最多のアルツハイマー病は、認知症状が始まる20年以上前から、脳にアミロイドβというタンパク質が蓄積してくることが原因であると、これまでの研究で明らかになっています。

近年、アミロイドβが蓄積してきていても認知機能が低下する前の状態、「プレクリニカル期」に薬剤治療を始めることで、アルツハイマー病の根本治療が可能になるのではないかと考えられています。

2021年に東京大学大学院医学系研究科の佐藤謙一郎医師、岩坪威教授らの研究グループは、ウェブ上での簡易テスト(J-TRC:認知症予防薬の開発を目指すインターネット登録研究)で「プレクリニカル期」を予測するアルゴリズムを開発したことを、国際学術誌『Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions』で発表しました。

「プレクリニカル期」の人は、ほぼ無症状で、しかも(認知機能低下のない)60〜70代以上の人のおよそ5人に1人程度です。このため、臨床試験の対象となる人を見つけ出すためには、PET検査※や心理検査を非常に多くの人に受けていただく必要があり、かなりの労力とコストがかかるために、薬剤開発上の課題となっていました。

この研究では、ウェブ上で年齢、性別、認知症の家族歴、自覚症状などのほか、簡単な認知機能検査などを行うことで、「プレクリニカル期」に該当するか予測できるアルゴリズムを開発しました。

さらに、このアルゴリズムを使って、J-TRCに登録している参加者のうち、一部の人の過去のPET検査結果と、本研究のアルゴリズムによるアミロイドβ蓄積の程度に対する予測結果と照合すると、一定の精度で予測できたと報告しています。

また、このアルゴリズムにおいては、「年齢が高い」「(最近1年の)認知低下の自覚症状が強い」「あるいは認知症の家族歴がある」という人ほど、アミロイドβ蓄積の程度がより強い傾向にあることもわかりました。

この方法は、ウェブ上で気軽に参加でき、簡単な認知機能検査をスクリーニングとして活用できるため、これまで課題となっていたコストの軽減なども可能になります。さらに、ウェブ上で簡単に調べることができるため、より多くの人に関心を持ってもらえる効果のほか、将来的には治療薬の開発促進に役立つのではないかと期待されています。

ただ、アルゴリズムによる予測が最終的にどの程度正しいものであるか、まだ不明な部分もあるようです。

このため、研究グループは、アルゴリズムの精度を検証し、性能を向上させることで、将来的に「プレクリニカル期」に汎用性のある予測アルゴリズムが構築できるのではないかと述べています。

※PET(陽電子放出断層撮影)は、放射能を含む薬剤を用いる核医学検査の一種で、全身を一度に調べることができる。がんや炎症の病巣、腫瘍の大きさや場所、良性と悪性の区別などを調べるほか、アルツハイマー病や心筋梗塞の診断にも使われる検査方法。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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