脳のはなし

7つのアミノ酸が認知症の進行を抑えることをマウスの実験で発見

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子生命・医学部門量子医科学研究所脳機能イメージング研究部の樋口真人氏と高堂裕平氏、味の素株式会社の研究グループは、タンパク質の構成要素を構成するアミノ酸9種類のうち、7種類の必須アミノ酸の摂取が脳機能の維持や改善に役立つことを、2021年に科学誌『Science Advances』で発表しました。

脳の機能を発揮するには、神経細胞が連絡を取り合うための神経伝達物質が必要です。この神経伝達物質のもととなる必須アミノ酸は、体内で合成できないため外部から摂取する必要がります。しかし、これまでタンパク質の摂取不足や必須アミノ酸の摂取が脳機能にどのような影響を与えるのかわかっていませんでした。

そこでこの研究は、神経伝達物質のもととなる必須アミノ酸がいかに脳機能を維持することに役立つかについて解明するために、認知症モデルマウスを用いて行われました。

必須アミノ酸の「AminoLP7」を認知症モデルマウスに朝と夕の1日2回、約3か月間与えて、脳の大きさをMRIで測定。この研究で用いた必須アミノ酸「AminoLP7」とは、ロイシン、フェニルアラニン、リジン、イソロイシン、ヒスチジン、バリン、トリプトファンの7種の必須アミノ酸で、脳内への入りやすさを加味した味の素の独自の必須アミノ酸配合のものです。

その結果、認知機能の低下に関係していると思われる脳の萎縮が、認知症モデルマウスで抑制されたことがわかりました。

図)Amino LP7摂取による大脳皮質の萎縮

認知症モデルマウスにおいて、「Amino LP7」が大脳皮質の萎縮抑制効果を示した。
出典)国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子生命・医学部門量子医科学研究所脳機能イメージング研究部

またこの研究では、高齢者は加齢によって食欲が低下する傾向にあり、タンパク質の摂取不足も起こりがちだということから、認知症モデルマウスに低タンパク食を与えて脳の状態を調べました。すると、脳の萎縮は、低タンパク食を摂取することで加速しましたが、低タンパク食を摂取している中でも「Amino LP7」を摂取することで、脳萎縮が抑制されていることが認められました。

さらに詳細なメカニズムを解明するために、神経細胞同士をつなぐシナプスを調べると、「Amino LP7」を摂取することで、シナプスを構成するスパイン数※が健常マウスと同レベルに維持されることが判明しました。

大脳皮質の遺伝子解析では、認知症モデルマウスの脳萎縮の前段階から「AminoLP7」を摂取すると、脳内炎症や神経細胞の活性やスパインに関する遺伝子の発現が改善することも明らかになりました。

これらの成果から、「Amino LP7」は神経伝達物質として脳の神経細胞の働きを高め、脳内炎症を抑制し、脳機能を維持する可能性があるのではないかと報告しています。

研究チームは、今回の研究成果をもとに、ヒトの脳機能を維持する仕組みに脳内炎症が関与していることを臨床研究で明らかにし、認知症の発症予防法の開発につなげたいと述べています。

※スパインとは、神経細胞の樹状突起にあるトゲ状の構造のこと。病気によって樹状突起スパインの密度などの変異がある。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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