脳のはなし

脳が萎縮しても認知機能が保たれる人と、そうでない人には違いがある!

脳のMRI検査を用いた研究の発展により、脳の容積の減少(萎縮)は20代をピークに、加齢に伴いどんどん減少することがわかってきました。この脳容積の減少の進行は、加齢以外に、肥満や糖尿病、食生活などとも関わっていることから、脳容積を用いて脳の健康を数値化する、または脳年齢を計算するといった研究が世界中で行われるようになりました。

この1つにITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector:国際通信連合 電気通信標準化事業部門)で標準化されているBHQ (Brain healthcare quotient)※という脳の健康指標があります。

京都大学大学院オープンイノベーション機構の渡邉啓太特定准教授と山川義德特任教授らの研究チームは、脳の灰白質容積から算出したGM(Gray Matter)-BHQと、認知機能テストの結果が強く相関していることを、2021年に学術誌「Cortex」で発表しました。

この研究は、2013〜2019年に脳のMRI検査を受診した1,799人を対象に脳の灰白質の容積から算出したGM-BHQと、認知機能の関係を調査したものです。比較対象として、記憶を司る脳の部位である海馬容積を計測しました。知能測定では、時間や場所に関する見当識や、記憶などを調べるミニメンタルステート検査(MMSE)を行いました。

その結果、認知機能とGM-BHQ、または海馬容積を解析すると、GM-BHQのほうが認知機能と高い相関関係があることが明らかになりました。

図)認知機能低下と脳萎縮の進行

出典)京都大学大学院オープンイノベーション機構(PDF)

また、脳が萎縮した時に、認知機能が低下する人と認知機能が保たれる人がいることに着目し、運動習慣や飲酒歴、喫煙歴、生活習慣病の有無、教育年数などについても比較しました。

すると脳の容積が減少していても認知機能が保たれている人は、大学や大学院を卒業しているなど教育年数が長いという特徴があることがわかりました。
ただ、教育年数の特徴については、「若い頃によく勉強していたから」「大人になっても勉強する習慣を持っていたから」などと、複数の理由が考えられるということです。

このため、研究チームは、認知症の予防に応用するためには、今後も認知機能の低下を防いだ要因のより詳細な分析が必要だと報告しています。

※BHQとは、脳MRIで脳の白灰質(神経細胞が集まる部位)の容積などを、脳の領域ごとにデータベースと比較して算出した平均値のこと。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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