脳のはなし

ポジティブな思い出が脳を守る!?

辛く悲しい出来事を思い出すとネガティブな影響を受けてしまうことから、うつ病などの精神障害につながることがあります。そのため、ネガティブな思考の抑制や排除をすることで、うつ病の改善に結び付ける…といった研究が、これまで進められてきました。

ところが昨今は、それだけでは自己肯定感が高まらないため、抑うつの対策としては不十分であることも分かってきました。

そこで「ポジティブな情動を高めることができれば、うつ病を改善できる」と考え、脳活動とポジティブ記憶についての研究をしたのが、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構の研究グループです。
同グループの研究によって、ポジティブ感情を高める記憶を想起しやすい人、しにくい人の脳活動の違いが、今回明らかになりました。

健常成人25人を対象にした脳活動の測定と、ポジティブな記憶のテストを行ったところ、ポジティブ記憶を想起しやすい人ほど、前頭葉と側頭葉のネットワーク結合が強いことが分かったのです。

同研究チームの研究者は「この結合を強化する訓練法や方法が開発されれば、ストレス耐性を高めたり、うつ病治療へ応用できる」と語っています。

昨今は、コロナ禍で精神的なストレスを抱える人が増大し、国内のうつ患者数も127万人超になるなど、増加の一途をたどっています。
脳ネットワーク強化の訓練によって、ポジティブな精神状態が保持できる。それがもし実現されれば、薬を使うよりもずっと安心して受けられる治療として、非常に希望が持てる話といえるでしょう。

また、私たちはみずから自分の身の回りで起こった楽しかった記憶、うれしかった記憶を積極的に思い返してそれをじっくり味わうことが、ストレスに強い脳により近づくことができるかもしれない。同研究からは、そんな可能性も感じさせてくれます。

参考:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166432821005519?via%3Dihub

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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