脳のはなし

「正直脳」と「嘘つき脳」のメカニズム

「そんなつもりはなかったのに、ついつい嘘をついてしまった…」。そんな経験は誰もがあることでしょう。一説には、「人は1日に1~2回は嘘をつく」とも言われています。

日常的に息を吸って吐くように嘘をつく詐欺師のような人もいれば、たとえ自分が何かを失うことが分かっていても正直であろうとする人もいます。この差はいったいどこにあるのか?――それを、脳科学的に分析した研究を、ここではご紹介しましょう。

京都大学こころの未来研究センターの研究グループが行ったのは、正直さと不正直さの個人差に関係する脳の仕組みを、fMRI(機能的時期共鳴画像法)を用いて測定するという研究でした。

実験は、被験者に裏表の予想をしてもらった上でコイントスをしてもらい、予想のあたりはずれを自己申告してもらう。その予想通りだと、お金による報酬がもらえる、という内容で行われました。

このときの脳を測定したところ、報酬を期待する際の「側坐核」(そくざかく)の活動が高い人ほど、嘘の申告をする割合が高いことが分かりました。つまり、お金への欲求が強い人ほど嘘をつく…という結果が出たのです。

同時に、嘘をつかない正直な人は、理知的な判断や行動制御を司る「背外側前頭前野」(はいがいそくぜんとうぜんや)領域の活動が高いことも分かりました。

前頭前野は人間を人間たらしめる、大脳の大部分を占めている領域です。感情や衝動をコントロールし、高次な思考を行ったり、集中力や創造力を発揮するのに重要な部位です。

読み書き計算などの学習や新しい体験、良く体を動かすことなどで、前頭前野は活発に働くことが分かっています。つまり、先の研究結果からは、「人間らしい脳の持ち主ほど、より正直である」ということが読みとれます。

より脳を鍛え、存分に使う人ほど、より正直になれる。もしかしたら、その逆――より正直に生きようと努力するほど、より高次な人間として生きられる、ともいえるのかもしれません。

参考:https://www.jneurosci.org/content/34/32/10564

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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