脳のはなし

学習することで育つ「共感脳」

残念なことに、国や民族間の紛争は絶えず起こり続けています。戦争のない世界の実現を阻むのは何かというと、「共感の欠如」がその一つであるといえるでしょう。

人の痛みや苦しみが分からなかったり、感情を想像することができない。共感力の欠如は、あらゆるコミュニティのなかで、差別や暴力などの種となってしまうものです。

しかし、「共感は後天的に学習で育成することができる」という明るい希望を、研究で証明したのが、スイスのチューリッヒ大学経済学部社会神経システム研究所の研究グループです。

同研究では、参加者をスイス系とバルカン系の二つの異なる民族グループで分けて行われました。そして、同じスイス系のペアと、スイス系とバルカン系の異なる民族のペアの2パターンをつくり、それぞれの脳を測定、比較観察されました。

実験内容は、ペアのうち一人は手の甲に痛みを伴う電気ショックが与えられ、もう一人はその痛みからペアの人を救うために、もらえるはずのお金をあきらなければいけない――というものでした。

結果、同じグループの人から救われるよりも、異なるグループの人から救われたと認識したときのほうが、共感との関連が強い脳の部位である「前部島皮質」(ぜんぶとうひしつ)がより強く反応することが分かったのです。

「あまりよく知らない人から受けた、驚くべき前向きな経験が、より強い共感を引き起こすことが示されている」と、研究員は述べています。

よく知らない他者であっても、ほんのちょっとしたポジティブな経験があれば「共感する脳」が働き出す。社会的な動物である私たちの脳は、助け合えば、分かり合えるように作られている。そのことを示す研究結果といえるでしょう。

参考:https://doi.org/10.1073/pnas.1514539112

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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