2022.06.03
奥歯の喪失が脳の老化を促進させる!
歯の喪失が認知機能を低下させる可能性のあることは、これまで様々な研究で報告されています。アメリカのニューヨーク大学の研究報告に、歯の本数が少ない人はそうでない人と比べ、認知症を発症するリスクが1.28倍という報告があります。
2022年に国立長寿医療研究センターの山田匡恵研究員と、口腔疾患研究部の松下健二部長らの研究グループが、老齢マウスを使った実験により、臼歯(奥歯)を喪失すると脳の老化を促進するという研究結果を科学誌『Scientific Reports』で発表しました。
この研究は、18か月の老齢マウスモデルの上顎両側の第一臼歯(奥歯)を抜歯し、3か月後のマウスの認知行動と脳の海馬、視床下部の変化を調べたものです。
その結果、上顎第一臼歯(奥歯)を喪失した老齢マウスは、自発行動量と、空間作業記憶※1や運動協調性※2が著しく低下するとともに、海馬や視床下部の神経栄養因子※3や神経細胞などが減少していることがわかりました。さらに脳の老化の特徴として現れる病変、アストロサイトが著しく増加していることも明らかになりました。
この結果から、研究グループは歯を健康に保ち続けることが、脳の健康維持にはとても重要であると指摘しています。
人間の歯は親しらずを除いて全部で28本ありますが、2016年の厚生労働省の「歯科疾患実態調査」によると、40代後半の本数は27.6本、50代前半では26.4本と減り始め、60代前半で23.9本と歯の喪失が加速し、80代前半では15.3本と報告されています。
歯が抜ける原因となる虫歯や歯周病を治療する定期検診を心がけて、脳の老化を予防しましょう。
※1いくつかの走路に報酬を置くといった動物実験で、動物がすでに訪れた走路はどこであるかを記憶することを空間作業記憶と言います。
※2手と手、手と足、手と目などの個別の動きを一緒に行う運動のこと。
※3神経細胞の発生や維持、成長に欠かせない因子のこと。
出典)国立長寿医療研究センター
川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者
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