脳のはなし

認知症予防には中強度の運動が効果大

これまで身体活動が少なさは認知症の発症リスクの要因であるという研究が報告されてきました。しかし、近年の海外の研究では、身体活動の低下が原因で認知症になるのではなく、認知症の結果、身体活動の低下を起こすという、因果の逆転の可能性について報告されるようになりました。

この検証とともに、身体的な活動の中でも、強度別に見た身体活動量と認知症の関連がよくわかっていないことから、2022年に国立研究開発法人国立がん研究センターの予防研究グループは、多目的コホート研究(JPHC-Study)※において、身体的活動量と認知症リスクの関連について、総合医学ジャーナル『JAMA Network Open』で発表しました。

今回の研究は、2000年と2003年に秋田県、長野県、沖縄県、茨城県、高知県内の5か所の保健所管内にお住まいだった、50~79歳(調査開始時)の男女約4万3,000人を対象に、身体活動と認知症との関連を2016年まで追跡調査したものです。

身体活動量は、アンケート調査をもとに、それぞれの項目の強度(メッツ)をあてはめ、身体的活動の週に1~2回といった実施頻度と、1日あたりの総身体活動量を計算。さらに、身体活動量を強度別に分け、中強度身体活動(MVPA)は、うっすら汗をかくほどの早歩きや軽めのトレーニング程度の運動である3メッツ以上の身体活動とし、総MVPAと、余暇MVPA(労働や睡眠など生活に必要な時間を除いた身体活動量)を計算しました。調査中の2003年~2016年までに対象者のうち5,010人が認知症と診断されました。

研究の結果、総身体活動量、総MVPA、余暇MVPAが多いことは、認知症のリスクの低下に関連していることがわかりました。

グラフ)認知症診断までの年数に応じてケース
認知症と診断された者を除外した場合の、総身体活動量、総MVPA、余暇MVPAと認知症リスク

出典)国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所「多目的コホート研究」HPより

さらに、認知症と診断される前の段階の身体活動の低下による因果の逆転の可能性を検証するために、追跡を開始してから初期に診断された認知症を、1年ずつ期間を延ばし除外した結果、グラフのように除外した期間が男性で7年、女性で8年以上になると、総身体活動量と総MVPAの認知症のリスクの低下の関連性が見られなくなりました。海外の研究報告にあるように、認知症と診断される前の活動性低下に影響を受けている可能性があることが示唆されました。

一方、男性の余暇MVPAは、初期に診断された認知症を除外しても、認知症リスクの低下と有意な関連が見られました。この理由は、余暇MVPAにはゴルフやテニスなども含まれており、中強度の余暇の身体活動や、社会的なつながりが認知症予防に効果的であったことが考えられると言います。

女性は余暇MVPAでも関連が見られませんでしたが、余暇以外でも家事など認知機能を使って行う身体活動が多く、友人や近所のつきあいなど社会的なつながりが多いことから、男性よりも効果が見られなかったのではないかということです。

これらの結果から、因果の逆転の影響は受けている可能性はあるものの、身体活動量やMVPAが多いほど、認知症のリスクを下げる可能性があるということです。

※JPHC-Studyは、保健所や国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関などが中心となって、日本人の生活習慣病とがん、2型糖尿病、脳卒中、脳梗塞などの病気の関係を明らかにし、健康寿命を伸ばすことを目的として行われている研究です。

参考)https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8908.html

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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