脳のはなし

パーキンソン病に伴う認知症の新たな治療の試み

パーキンソン病は、動作緩慢や手足の震えと言った運動症状が徐々に悪化する、高齢者に多い神経疾患です。人口の高齢化とともに患者数が増加傾向にあることから、日本だけでなく、世界的にも大きな問題になっています。

パーキンソン病は、代表的な運動症状以外にも、嗅覚障害やレム睡眠行動異常症、自律神経障害、認知機能障害を伴うこと明らかになっています。中でも、認知機能障害が重症化し認知症を発症すると、患者や介護者の生活の質を大きく損なうことから、早期診断・治療が求められています。

パーキンソン病は、神経伝達物質の1つであるドパミン神経の障害によって運動障害を生じると言われてきました。しかし、近年、アセチルコリン神経にも障害を認めることが明らかになっており、このアセチルコリン神経の障害が認知症の発症の主な原因であることがわかってきたのです。

これまでの東北大学大学院医学系研究科高齢者認知・運動機能障害学講座の武田篤教授らの研究グループのパーキンソン病の研究では、重度嗅覚障害があると認知症を発症しやすいことや、嗅覚障害の重症度がアセチルコリン神経の障害度と相関することなどを明らかにしてきました。

新たな研究では、認知症発症リスクの高い重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者にアセチルコリン神経機能を高める薬剤ドネペジルを早期から投与することで、認知症を予防できるかを検証。その結果が2022年にイギリスの国際医学誌『eClinicalMedicine』で発表されました。

この研究は、重度嗅覚障害のあるパーキンソン病201人を対象に、ドネペジルを投与するグループと、投与しないグループ(プラセボ)に分けて、4年間にわたり認知症発症を予防できたかを調べたものです。

グラフ)ドネペジル投与による認知機能検査成績と非運動症状の改善

その結果、ドネペジルを投与したグループのうち7人と、投与していないグループのうち12人が認知症を発症し、認知症発症リスクに統計学的な有意な差は見られませんでした。
一方、認知機能検査では、ドネペジルを投与したグループと投与しないグループを比較すると有意によい結果を示すことがわかりました。そのほか、ドネペジルを投与したグループでは、パーキンソン病で見られる便秘やめまい、疲労感といった症状が軽減することも明らかになりました。

研究グループのアセチルコリン神経障害に着目した長期的な薬剤投与の研究は、世界初です。認知症の治療薬もまだないことから、今回の研究がパーキンソン病における認知症予防のためのヒントになるのではないかと注目されています。研究グループは今後もさらに研究を続け、パーキンソン病における効果的な認知症予防法の開発を続けていくということです。

出典)東北大学大学院医学系研究科高齢者認知・運動機能障害学講座(PDF)

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

※ ご自身の脳についてもっと知りたい方は、川島隆太博士監修の「脳のはなし 6日間無料メール講座」の受講をおすすめします。

  • 脳活動と日常生活の関係性
  • 現在脳科学でわかっている事実
  • 効果的な脳の鍛え方

などを6日間にわたってメールでお伝えします。
ご登録はこちらから