脳のはなし

中年期に握力が弱いと認知症のリスクがUP

アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校のKate A. Duchowny博士らの研究グループが、握力とその後の認知症発症と、認知機能低下との関連について調べた結果を、2022年にメディカルオンライン『JAMA Network Open』で明らかにしました。

この研究は、2006〜2010年にイギリスの観察研究する調査機関「UK Biobank」に登録する平均年齢56.6歳(39〜73歳)の男女19万406人を対象に平均で11.6年間追跡調査したものです。

研究の主な評価は、認知症発症のほか、認知機能検査のスコア、脳のMRI所見です。合わせて、握力と認知機能の関係に影響を及ぼす可能性の要因として、年齢、人種、学歴、貧困度、運動習慣、BMI、全体的な健康状態、血圧などの情報も収集し、握力が5kg低下するごとのリスクを分析しました。

研究の結果、握力が5kg低下するごとに、認知症の発症リスクは男性で1.16倍、女性では1.14倍。アルツハイマー型認知症のリスクは男性1.11倍、女性1.13倍、血管性認知症のリスクは男性1.23倍、女性1.20倍ということがわかりました。記憶と知能という2種類の認知機能のスコアも、握力が5kg低下するごとに有意に低下することがわかりました。

また、頭部MRIを分析したところ、握力と全脳容積および海馬の容積の間には有意な関係は見られなかったものの、認知機能の低下に関連すると言われる大脳の白質病変の容積が、握力が5kg低下するごとに、男性で92.22mm³、女性では83.56mm³大きくなっていました。

さらに研究グループは、参加者を65歳未満だったグループと65歳以上だったグループに分けて、認知機能検査・MRI検査の結果と、握力の関係について分析したところ、認知機能が低下するといった同様の結果であることを明らかになったのです。

これらの結果から、中年期から握力など筋力が高い人のほど、その後に認知機能に問題が生じるリスクが低いということから、中年期の筋トレは、将来の認知機能の維持に役立つ可能性があることが示されたということです。

出典)https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2793510

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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