脳のはなし

運動をすることで脳に影響

2型糖尿病は、血糖値を保つ働きのあるホルモン・インスリンが出にくくなったり、運動不足や肥満からインスリンが働かなくなったりすることで血糖値が高くなり、発症すると言われています。また、アルツハイマー型認知症の発症には、脳のインスリン抵抗性が関係していて、脳に悪影響を及ぼすと言われています。

2022年にドイツ糖尿病研究センターの研究グループは、脳のインスリン抵抗性がウォーキングなどの運動介入によって改善されたことを、アメリカの科学誌『JCI insight』で発表しました。

インスリン抵抗性とは、インスリンの感受性が低下すること。インスリンが血中に分泌されているにも関わらず、筋肉・脂肪細胞・肝臓などの臓器・細胞で、インスリンに対する感受性が低下し、インスリンの血糖を下げる働きが十分に発揮されない状態のことです。インスリン抵抗性を放置していると、認知症の原因となるアミロイドβが脳にたまりやすくなり、それが蓄積することで、アルツハイマー型認知症発症の原因になると考えられています。

この研究は、BMIが27.5~45.5の過体重の21歳~59歳の男性7人と女性14人を対象に、有酸素の持久力トレーニングに8週間取り組んでもらい、トレーニングの前後に、MRIで、脳のインスリン感受性を測定したものです。

その結果、脳内のインスリン抵抗性が8週間の運動によって、健康な体重の人と同レベルまで改善されました。脳のインスリン感受性が改善されたことで、代謝にも効果があらわれ、空腹感や内臓脂肪の蓄積が減少しました。
さらに動機付けや報酬、感情、運動行動の相互作用に関与する脳領域のインスリン刺激活動を増加させることも明らかになったのです。

つまりわずか8週間でも運動を続けることで、脳のインスリン感受性が回復し、インスリンが効きやすい体に変わっていくことで、脳でもインスリンが効きやすくなり、認知力も向上する可能性が示唆されました。

脳のインスリン抵抗性を減少させるための効果的な運動は、ウォーキングなどの有酸素運動と、筋力トレーニングです。有酸素運動により筋肉への血流が増えると、インスリンの効果が高まり、血糖値は下がりやすくなります。筋力トレーニングよって筋肉が増えることで、インスリンの効果が高まり、血糖値は下がりやすくなりますから、日頃から、運動を習慣化することが大切です。

研究グループは、さらに2型糖尿病のリスクが高い人を対象に、脳のインスリン感受性を改善することが、代謝と認知能力に実際に有益な効果をもたらすかを検証し、運動療法の効果のメカニズムを解明するために、大規模な研究を計画していくと報告しています。

出典:ドイツ糖尿病研究センター

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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