脳のはなし

気持ちの落ち込みが記憶を支配する!?

うつ病になると記憶力が低下するというのは、有名な話です。約束をすっぽかしてしまったり、忘れ物や探し物が増えたり。昨日何を食べたかといったことも思い出せなくなることさえあります。

そして、単に記憶力が低下するだけでなく、その記憶の内容においても、うつ病は大きく影響していることが昨今の研究では明らかになりました。それは、うつ病で記憶力が低下しても、ネガティブな記憶は思い出すことは容易であるということです。

ハーバード大学の精神医学者、ダニエル・ディロン氏は「通常、健康な人はネガティブな記憶よりもポジティブな記憶のほうが強く残りやすい。しかし、うつ病の人は悪い記憶のほうが強く残りやすい」と語っています。

実際、スペインのコンプルテンセ大学が行った研究では、うつ病になったことがある人となったことのない人の否定的な形容詞の記憶度を比較したところ、うつ病になったことがある人のほうが、より強く記憶できることが分かっています。

これについては、だれもが実感したことがあるのではないでしょうか。気持ちが落ち込んでいるときは、悪い記憶ばかりを反すうしながら、より暗い気分に沈み込んでしまうものです。その一方で、そばにいる人から励ましの言葉をかけられても、その言葉はすぐに忘れてしまい、また自分の気持ちのなかに沈みこんでしまうこともあるでしょう。

自分が落ち込みやすく、不安になりやすい傾向があると自覚がある人は、「自分は悪いことばかり思い出して、よいことを忘れてはいないか」と、自省の時間を持つことをおすすめします。その時間を習慣にすることが、心を守ることにつながるカギになることでしょう。

参考):
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0005791613000712#bib33

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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