脳のはなし

旅行は認知症リスクを低下させる効果がある

東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授らとクラブツーリズムが2016年から共同研究していた「旅行が認知症予防にもたらす効果」についての研究結果が、2021年に学術論文誌『Humanities and Social Sciences Communications』で発表されました。

この研究は、クラブツーリズムの60歳前後の顧客835人を対象にしたアンケート調査のデータを分析したもの。アンケートでは、旅行頻度のほか、旅行に対する興味関心、年齢、収入、暮らし向き、主観的健康状態、職業、家族構成とともに、認知特性の評価のために、知的好奇心、主観的幸福度、ストレスについても聞きました。

その結果、「拡散的好奇心」が旅行の動機になっていることがわかり、旅行を通じて刺激を受けることで「拡散的好奇心」が満たされ、結果的に主観的幸福度が高まるというメカニズムが解明されました。

拡散的好奇心とは、物事に対して幅広く関心や情報を求める性格特性のこと。すでに同研究チームの研究で、主観的幸福度は認知症を低下させる効果が報告されているため、「拡散的好奇心」を持つ性格の人は旅行に行く回数が増えるほど、認知症リスクを低下させる可能性が期待できるということです。

ただ、好奇心の1つ「特殊的好奇心」と旅行の動機の関連性は認められませんでした。自分の関心事を深く追求したい「特殊的好奇心」の性格を持つ人にとっては、気晴らし目的や見物に行くといった旅行では、主観的幸福度は高まらないということです。

この結果から、研究グループは旅行による認知症予防効果を立証するには、人の性格や旅行のタイプを考慮したさらなる調査が必要だと報告しています。

旅行の頻度と拡散的好奇心
年10回以上旅行に行くグループは、旅行頻度が低いグループより拡散的好奇心が高い。
拡散的好奇心と旅行頻度グラフ
主観的幸福感と旅行頻度
年10回以上旅行に行くグループは、旅行頻度が低いグループより主観的幸福感が高い。
主観的幸福感と旅行頻度グラフ

出典)東北大学加齢医学研究所

これまで脳の健康維持のための活動として、運動、食生活、睡眠、読書や楽器演奏などの趣味活動などが報告されていますが、旅行もその活動の1つとして大きな期待が寄せられています。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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