脳のはなし

難聴は認知症の危険因子の1つ。中年期からの聴力の衰えに要注意!

2017年の世界認知症学会で、難聴は認知症の危険因子であることが報告され、難聴と認知症の関連が注目されるようになりました。ランセットで公開された論文では、中年期に難聴であると高齢期に認知症になるリスクが1.9倍に上昇することも報告されています。

難聴が認知症の原因として考えられているのは、耳が聞こえにくくなると音の刺激や脳に伝達される情報が少なくなることです。脳は各部位と連携しながら機能しているため、音の刺激や情報が極端になくなると神経細胞の働きが衰え、脳の萎縮が進み、認知症につながるからです。また、難聴の人は家族や友人など他者とのコミュニケーションがとりにくいことから閉じこもりがちになり、それが精神面にも影響し、認知機能が低下することも原因の1つと考えられています。

日本でも国立長寿医療研究センター、もの忘れセンターの佐治直樹副センター長は、名古屋女子大学の片山直美教授、東京都健康長寿医療センターの鈴木宏幸研究員、鹿児島大学の牧迫飛雄馬教授らと協力し、難聴と認知機能に強い関連があることを2020年に科学誌『Archives of Gerontology and Geriatrics』で発表しています。

この研究は、北海道八雲町、東京都板橋区、鹿児島県垂水市で実施された地域在住高齢者の住民健診データを統合し、「聞こえ」についてのアンケート調査をもとに認知機能を分析したものです。

「聞こえ」の状況と認知機能テストの正答率との関係

出典)国立長寿医療研究センター

その結果、難聴(聞こえの程度)が重度になるほど、認知機能テストの正答率が低い傾向になり、認知機能低下が1.6倍も高くなることが明らかになりました。さらに難聴の人の割合は海外とほぼ同一にも関わらず、海外の補聴器の65歳以上の使用率が44〜66%に比べ、日本は17%と低い傾向にあることがわかりました。

研究チームは、補聴器を使用することで認知機能の低下を予防する可能性があることから、今後も補聴器を導入すると認知機能にどう影響するかの研究を続けていくと報告しています。また、これからの地域在住高齢者を対象にした人間ドックや住民健診では、「聞こえ」や認知機能についてのチェックがより一層重要になるとも報告しています。

聴力の衰えは高齢者というイメージがありますが、実は40代くらいから始まっていると考えられています。中年期から耳の健康をチェックすることは認知症予防のためにも重要です。

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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