脳のはなし

レビー小体型認知症の発症リスク遺伝子を発見

認知症には、アルツハイマー型認知症のほか、レビー小体型認知症、血管性認知症などがあります。認知症の中で一番多いのはアルツハイマー型認知症ですが、レビー小体型認知症も多くの方に発症します。

レビー小体型認知症は、パーキンソン症状や幻視のほか、睡眠中に悪夢を見て大きな声で寝言を言ったり、怒ったりすることもあり、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)が低くなることが知られています。また、アルツハイマー型認知症よりも生存期間が短いという報告もあります。

このレビー小体型認知症発症リスクを高める遺伝子を発見し、2022年に国際専門誌『Neuropsychiatric Genetics』で発表したのが、国立長寿医療研究センター研究所の重水大智部長らの研究グループです。

発表された研究は、国立長寿医療研究センターのバイオバンクに登録されている日本人のレビー小体型認知症患者61人と、認知機能正常高齢者45人の全ゲノムシークエンスデータ※1を解析し、さらに大規模日本人検証コホートを用いて検証実験を行ったものです。

その結果、MFSD3ストップゲイン変異※2が、レビー小体型認知症発症のリスクを高めていることを見出しました。このMFSD3ストップゲイン変異は、東アジア人以外の人種では見つからないことから、東アジア人特有の遺伝子変異の可能性があるということです。

加えて研究グループは、全ゲノムシークエンス解析で見つかったレビー小体型認知症で変異が蓄積している16個の遺伝子に対して解析を行った結果、多数の遺伝子と相互作用するハブ遺伝子として、RASSF1とMRPL43が同定され、これらもまたレビー小体型認知症の発症リスク遺伝子である可能性についても明らかにしました。

大規模な日本人検証コホート実験からMRPL43のミスセンス変異※3は、MFSD3ストップゲイン変異が東アジア人以外に見つかっていないのと同様に、日本人以外の人種では見つからないことから、民族特異的なレビー小体型認知症関連遺伝子変異の可能性があるということです。

これらの結果は、将来期待されるゲノム医療につながる重要な知見と言われていて、今後のレビー小体型認知症の解明や、新たな予防、治療法に貢献することが期待されています。

※1
次世代型DNAシークエンサーを用いて、約30億塩基あるヒトゲノム配列の全領域を高速に解読する手法。数万人に1人しか保有していないような、低頻度な遺伝子変異であっても検出することが可能です。

※2
一塩基置換遺伝子変異のうち、その遺伝子がコードするタンパク質への翻訳をやめてしまう変異のこと。この変異が起こると本来得られるタンパク質よりも短いものが生成されるため、多大な影響を及ぼすことになります。

※3
一塩基置換遺伝子変異のうち、その遺伝子がコードするタンパク質において異なるアミノ酸残基への置換を伴う変異。

出典)国立長寿医療研究センター(PDF)

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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