脳のはなし

難聴を認識しないと認知機能が低下傾向に

これまでも客観的測定から判定される加齢性難聴と、主観評価での難聴(自己報告での難聴の訴え)の両者がかけ離れていることは、高齢者の健康に悪影響を及ぼすことが報告されてきました。けれども、この両者の乖離が何を示しているかについては研究で明らかになってきませんでした。

2022年に東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太研究員らの研究グループが、客観的測定では中等度以上の難聴と判定されるにもかかわらず、耳の聞こえには問題がないと回答するような高齢者の身体・認知機能が低い傾向にあることを、国際誌『Archives of Gerontology and Geriatrics』で明らかにしました。

この研究は、2013年に東京都板橋区で行った健康調査「お達者健診」に参加した696名の高齢者のデータを解析したもの。客観的難聴は、オージオメータを用いて測定し、正常聴力者、軽度難聴者、中等度以上の難聴者に分けて、「耳は聞こえにくいですか」という質問に「はい」と回答した人を主観的難聴者としました。合わせて、歩行機能や認知機能、抑うつ傾向※の測定を行いました。

グラフ)結果の一例

その結果、63.5%の軽度難聴者、22.2%の中等度以上の難聴者には、主観的難聴が認められませんでした。客観的な難聴レベルが上がるにつれ、歩行機能と認知機能レベルは低くなる傾向が確認されました。中等度以上の難聴者では、主観的に難聴を感じている人に比べ、感じていない人は、歩行機能と認知機能が統計学的に有意に低くなっていたのです。さらに主観的難聴者では、実際の測定した聴力にかかわらず、抑うつ傾向が高いことが明らかとなりました。

加齢性難聴は、精神的健康にも影響を与え、認知機能の低下をもたらす可能性だけでなく、認知症リスクを高める要因と言われています。耳が聞こえづらいというのは、高齢者にとって恥ずかしいという思いもあり、なかなか自分で認められないこともあるようです。高齢者のいる家庭では、家族が注意して早めの検査と治療を促すことが大切です。

※ストレスや身体的な状態など、さまざまな原因で気分が落ち込み、活動力が低下することで、身体のさまざまなところに不調があらわれる状態です。

出典:東京都健康長寿医療センター研究所(PDF)

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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