脳のはなし

色と言葉の矛盾を解消する脳機能を解明

群馬大学情報学部の地村弘二教授と、慶應義塾大学大学院理工学研究科大学院生(研究当時)の岡安萌氏、犬飼天晴氏、高知工科大学脳コミュニケーション研究センターの中原潔教授と竹田真己特任教授らの研究チームが、2023年に色と言葉の情報の矛盾に関する研究結果を発表しました。

イギリスの学術論文誌『Nature Communications』で発表された論文で、色と情報が矛盾する時に生じる「ストループ効果」が起こる時の脳の働きが解明されたのです。

ストループ効果とは、文字の色と文字の意味が矛盾する情報を同時に目にすると、即座に色を判断できなくなること。例えば、「あお」と赤字で書かれている時は色と情報が矛盾しているため、「あお」と青字で書かれている時よりも、判断を遅らせることもあります。

ストループ効果の何色であるかという情報(光の波長)は、眼球の内側の網膜で得られ脳に伝わる一方で、言葉の情報は、脳の多階層で柔軟な高次の情報処理を経て得られると考えられています。けれども、この効果が脳内でどのように生じ、どのように解消されていることはこれまで不明でした。

この研究は、ストループ効果における言語の役割を、知覚(見る)と反応(答える)という段階に分けて、干渉が解消される時の脳活動を機能的MRIで計測したもの。被験者には、機能的MRI撮像中に、標準的な「ストループ課題」、または知覚に言語情報を含まない「スイミー課題」を行い、正解を声に出す(正解を答える時にも言語を含む条件)か、ボタンを押して回答してもらいました。

その結果、ストループ課題では、大脳左半球の外側(がいそく)前部にある前頭前野と、右半球の外側にある小脳皮質に大きな活動をしていることがわかりました。そしてこの傾向は、口頭で答えても、ボタンで答えても同様でした。一方、スイミー課題では、ストループ課題のような半球間の活動は観察されませんでした。

これらの結果から、ストループ効果は色を答える時ではなく、色がついた単語を知覚する時に起こり、その解消のためには、大脳の前部にある前頭前野と、小脳の外側にある皮質が含まれるループ回路(前頭・小脳ループ)が重要であるということが解明されたのです。

この結果より、これまで機能が比較的単純であると考えられてきた小脳が、前頭・小脳ループを介して、ヒトに特有な言語や、認知の制御のような高度な心理機能に関連していることが示唆されたのです。

図ストループ課題とスイミーに課題における言葉の影響を知覚と反応の脳活動

ストループ課題とスイミーに課題における言葉の影響を知覚と反応の脳活動を計測。言葉の知覚に依存して、左大脳の前頭前野と右小脳の皮質が活動。小脳の活動は前頭前野の活動を抑制し、前頭前野の活動は小脳の活動を増大させました。

出典:群馬大学情報学部 高知工科大学脳コミュニケーション研究センター
https://www.nature.com/articles/s41467-022-35397-w

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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