脳のはなし

ながら歩行が難しいは認知症のサイン?!

デュアルタスクとは、2つのことを同時に行う「ながら動作」のことで、二重課題とも呼ばれています。

代表的なデュアルタスクの一つが歩行です。歩行は、歩きながら信号や標識などの確認、意識決定、会話といった、他の認知タスクと同時に行われます。これまで、このような「ながら動作」が維持できなくなることは、高齢者の脳の機能の低下に関係していて、65歳以上に起こるものと考えられてきました。

けれども実際は、50代半ばから「ながら動作」が維持できなくなる=認知機能が低下し始めていることが、アメリカのハーバード大学医学部と、ヘブライ・シニアライフ社の研究グループによって、2023年に医学誌『Lancet Healthy Longevity』で明らかにされました。

この研究は、スペインの「バルセロナ脳健康イニシアチブ」研究に参加した40~64歳の男女640人のデータを解析したもの。歩行のデュアルタスクは、対象者に静かに45秒歩くテストと、暗算問題に答えてもらいながら歩くテストで測定。認知能力は、処理速度や作業記憶などのスコアを算出しました。

研究の結果、静かに歩くテストでは年齢に関係なくほぼ一定の結果が得られたものの、計算問題を伴うデュアルタスクの歩行テストは、54歳以降、年齢が上がるにつれて認知機能のパフォーマンスが低下することがわかりました。

これらの結果から、研究グループは、中年期のデュアルタスク歩行能力の低下が、脳の老化の加速、または無症状の神経変性状態の指標である可能性が高いと述べています。

またこの研究で、50歳以下の参加者のデュアルタスク能力が低下していないことが明らかになったことが、デュアルタスクの対策を何歳から始めると良いかという手掛かりになるのではないかとも報告しています。

まだ50代だから油断しがちですが、早めに食事、運動、睡眠などの生活環境を見直し、脳機能を高めるように心がけておくことが大切です。

出典)
アメリカ ハーバード大学医学部
Lancet Healthy Longevity

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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