脳のはなし

深い睡眠時に現れる脳波が血糖値を改善

十分な睡眠がとれていれば身体的・精神的な健康増進につながり、逆に睡眠不足であれば糖尿病などの病気が悪化すると言われています。また、睡眠不足は高血糖や糖尿病に悪影響を及ぼす可能性のあることが知られています。けれども、その詳細なメカニズムはわかっていませんでした。

2023年に、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校の神経科学・心理学のマシュー・ウォーカー教授らの研究グループが、深い眠りがインスリンに対する感受性を改善し、血糖値が下がりやすくなるメカニズムを学術誌『Cell Reports Medicine 』で発表しました。

この研究は、600 人を対象に睡眠データを調査したもの。深い睡眠時の脳波に見られる睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)と徐波(じょは)と呼ばれる2つの脳波の組み合わせによって、翌日の血糖コントロールが予測できることを発見しました。

睡眠時の脳波は、レム睡眠とノンレム睡眠という、質の異なる2つの睡眠段階に分類されています。レム睡眠は脳が活発に働いているのに対し、ノンレム睡眠は脳が休息している状態で、脳や体の疲労回復のために重要と言われています。

ノンレム睡眠の周期は90~120分で、睡眠の深さ(脳波の活動性)によって1から4(浅い→深い)の段階に分けられています。深い睡眠の時に2段階で睡眠紡錘波、3、4段階で徐波が活発になります。

深い睡眠のためには、副交感神経が日中に働いていた交感神経よりも優位になることが必要です。この副交感神経にスイッチを入れるのが、夜の深い睡眠により得られる睡眠紡錘波と余波の組み合わせで、血液からブドウ糖を吸収するよう細胞に指示し、インスリンに対する体の感受性を高めて、血糖値の上昇を防いでいるのではないかということです。
研究者グループは、さらに1,900人のデータを分析し、睡眠時の脳波により同じ効果が得られたと報告しています。

これらの結果から、睡眠は修正可能なライフスタイル要素であり、高血糖や2型糖尿病患者に対する、痛みのない補助治療の一部として使用できるようになるのではないかと述べています。

出典):カリフォルニア大学バークレー校

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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