脳のはなし

社会的孤立と脳萎縮のメカニズムを解明

コロナ禍の影響などで、高齢者の社会的孤立による健康への影響が問題視されています。これまでの調査では、社会的孤立により高齢者の認知症の発症リスクが上昇することが報告されていますが、社会的孤立が脳萎縮などの脳に及ぼす影響については十分に解明されていませんでした。

2023年に九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授と、心身医学の平林直樹講師らの共同研究グループ※が、高齢者の交流頻度と脳容積との関連を解析した結果を国際学術誌『Neurology』で発表しました。

この研究は、健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究のJPSC-AD研究に参加した65歳以上の認知症ではない8,896人を対象に、脳MRI検査や健診データを用いて、交流頻度と脳容積との関連を解析したもの。交流頻度は、「同居していない親族や友人などと、どの程度交流 (行き来や電話など)がありますか?」という質問への回答から、「毎日」「週数回」「月数回」「ほとんどなし」に分類しました。

その結果、交流頻度が減少するにしたがって、脳全体の容積や認知機能に関連する脳容積(側頭葉、後頭葉、帯状回、海馬、扁桃体)が有意に低下し、脳の白質病変の容積が有意に上昇することがわかりました。

図)交流頻度と全脳容積、白質病変容積の関連

高齢者の社会的孤立は、脳萎縮や認知症の間に悪影響をもたらしている可能性があることから、予防するためには普段から他者との交流を増やし、社会的孤立を防ぐことが大事だと研究グループは報告しています。

出典:AMED日本医療研究開発機構「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究」(PDF)
※九州大学大学院、弘前大学、岩手医科大学、東北大学、金沢大学、慶應義塾大学、松江医療センター、愛媛大学、熊本大学

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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