脳のはなし

現役医学部生が未知の脳領域の形成過程を解明

慶應義塾大学医学部6年生の大島鴻太氏は、東京慈恵会医科大学解剖学講座の久保健一郎教授(研究開始時 慶應義塾大学医学部解剖学教室准教授)、慶應義塾大学医学部解剖学教室の仲嶋一範教授らとともに、脳の未知の領域である前障が形成される過程を明らかにし、2023年に神経科学誌 『The Journal of Neuroscience』で発表しました。

前障とは、人を含む哺乳類の大脳皮質の深部に存在していて、「意識を司る」と考えられている脳の重要な領域です。前障の機能は、注意の割り当て(複数の課題もしくは1つの課題でも、複数の要求に対して同時に対応できる能力)や、意識の調節などと仮説が立てられてきました。

脳の神経細胞の多くは、脳の最深部で誕生した後、脳表面へと移動し、それぞれの正しい場所に配置されます。前障の機能や特徴の多くが未解明であり、脳の発生過程において前障がどのように作られるのかは、これまでわかっていませんでした。

この研究は、前障の形成の過程を明らかにするために、マウスの脳の細胞を、蛍光色素を用いて可視化し、その動きを調べたものです。

その結果、脳の深部で生まれた前障の神経細胞は、一旦脳の表面に達した後、移動方向を反転させて脳の深部へ向かう様子が観察されたのです。これまで観察されたことのない特徴的な現象であることから、「反転移動」と命名されました。

近年、前障の機能障害が統合失調症やてんかんなど精神・神経疾患につながる可能性があるという研究が報告されていることから、これらの病態の解明などに、今回の研究が役立つ可能性があるのではないかと期待されています。

図)前障が形成される過程の図

  1. 将来前障を構成する神経細胞は途中にある最終目的地(将来前障が形成される場所)では停止せず、その目的地を一度通過して、脳の表面へと移動します。
  2. 神経細胞は、いったん脳の表面に達したあと、今度は移動方向を反転させ、脳の深部へと逆向きに移動します。
  3. 最終目的地に到着し、前障を形成します。

出典:慶應義塾大学医学部解剖学教室 東京慈恵会医科大学解剖学講座(PDF)

川島隆太
株式会社NeU取締役 CTO、脳科学研究者

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